Neutral football

イメージした理想が現実を塗り替える。フットボールと社会をつなぐ

自分で決められることの大切さ

以前、小学1年生と練習してる時に面白い現象を体感したことがある。

3段階に分かれた練習で
① … 来たボールをリターン
② … 来たボールをリターンと見せかけ前を向く
③ … ① と②、自分で好きな方を選ぶ
みたいな感じだった。

①の時。つまり必ずリターンしなきゃいけない時は、その子から返ってくるボールが毎回とてもブレる。
②の時もそう。必ず前を向かなきゃいけない時も、実にぎこちない動きになる。
でも、どちらか好きな方を自分で即興で選んでいいという③の時。
その子から返ってくるボールは全てズバッと僕の足元に来て、前を向く動作も実にしなやかになる。

これは興味深いな、きっと何か理由があって必然なはずだ、と。
こうしなきゃいけないと決められた時は動きが固まりカチコチになって、逆に自分で決められる時は、頭も身体もしなやかになるんじゃないか…と思いFacebookに投稿してみたら、
『アレクサンダーテクニーク』の高椋さんが、すぐにメッセージをくれました。

アレクサンダーテクニーク・高椋さんの話
「これは、脊椎動物の刺激に対する反応の仕組みから説明すると分かりやすいかと。餌を自分で探して見つけるなど動物にとって快と感じる行動の場合、背骨が伸びる方向に動きが起こります。危険、恐怖など不快な刺激に対しては、緊張で背骨が収縮して急所を守ろうとする反応が起こります。人間の精神活動はより複雑ですが、自分の意志で動けないなど葛藤が生じる時は、後者の反応が起こります。背骨の緊張が習慣化されていない育成年代の指導では、選手が自発的にプレーできる環境を作ってあげることが、結果として良い体の使い方でプレーできる選手を育てることにつながると思います。あとは、良いお手本の模倣も大事ですね」

…なるほど!完璧な答えを頂きました。高椋さんありがとうございました。

『アレクサンダーテクニーク』http://alexander-fun.com/?page_id=1535

 

つまり
強制、限定された時の脊髄の反応と
自分で決めていい、選んでいい時の脊髄の反応には、明らかな違いが出る。
これはもちろん、動きのしなやかさにも繋がることでしょう。

そうなると、僕ら指導者が普段の練習で子ども達にどんなメニュー設定をしどんな言葉がけをしたほうがいいのか、自ずと決まってきますよね。試合でもそう。決めつけや断定、子どもが判断する前に先回りして指示を出してしまうことは、例えそれが良かれと思ってしてることでも、おそらくマイナスに働いてしまう。

打て!と言われて打ったシュートが力み外れるのも、打て!って言われたからかも。少なくとも自分で「打とう」と決めて打ったシュートのほうが入る確率は高いだろうし、選んだ心の余裕があるぶん、打つと見せかけてタイミングをズラしてさらに決定機の質を高めることも出来るのではないか。

大人の声に左右されそれに縛られ従わないと罵声が飛ぶような試合会場では、ストイコビッチ天皇杯決勝で見せたようなキックフェイント3連発からのゴールや、90年W杯のスペイン戦で見せたキックフェイントで相手を尻餅つかせて決めたスーパーゴールを打てるような、アイデア溢れる選手は決して生まれないだろう。


ストイコビッチ 超フェイントゴール 2000/1/1 Dragan Stojković /amazing feint goal


1990 World Cup Yugoslavia vs Spain (Dragan Stojkovic)

スーパーゴールは2:20〜

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例え相手が設定されていない、決められたことを反復して行うクローズドトレーニングをやる際にも、常に選択と発想の自由性、遊び、を持たせるようにする工夫が必要ですね。

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武術家・光岡英稔さんは、こう語っています。
↓↓

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教育したら人はすぐ弱くなります。「物事はこうでなければいけない」と教えたら、弱くなるのです。
学校をはじめほとんどの教育の内実は「こうでなければいけない」と刷り込んでいきます。もともとの才能を潰さずに教育するのは本当に難しい。

たとえば、私のもとで習っていた友人にジェームズという喧嘩屋がいました。彼は一時期、よそでボクシングを習い始めました。コーチは彼のパンチ力やヘビー級らしからぬスピードをみて「マイク・タイソンにも匹敵するスピードとパワーを秘めた逸材だ」と半ばスカウトして、彼をボクシングの世界に誘いました。

すると、それまで喧嘩では負け知らずのストリートファイターだったジェームズは、あっという間に弱くなっていったのです。

生の強さを活かせたらいいのに、下手にやり方やルールを教えてしまうとてきめんに弱くなる現象は、けっこう見られました。野性味あふれる強いファイターだと、周囲は「技術を学べばもっと強くなるだろう」と期待し、教育します。それがもともとの才能を潰すことになるのです。

これは個人だけでなく国家の規模で見ても同様で、だから異なる文化を持ち込むときには気をつけないといけない。異なる文化圏のルールやテクノロジーを持ち込むだけで、簡単に固有のよさを潰してしまえます。

 

上記は「現代ビジネス」の光岡さんインタビュー http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45934 からの引用です。

教育したら人は弱くなる。「こうでなくてはいけない、こうしなきゃいけない、こうすべきだ」と指導したことが、かえって選手の能力を潰してしまう…

このインタビューには続きもありとても面白いので、指導者や教育者の皆さん、是非ご一読を。

 

結論

空手家・大山倍達さんは、亡くなる直前まで「正しい拳の握り方がわからない」と言っていたそうだ。熊をも殺したという、誰もが知るあの達人でさえも。

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大山さんが示すように、何事にも、これが正しいという正解は決してなく、それを常に探し続けるのが指導者の務め。
もちろん、それぞれの指導者がその人なりに信じる正しさはあっていい。でも、それを疑い続ける姿勢を保つこと。それが全てではないことを自覚し、選手に対し強制や矯正をしないこと。

わかること、は一生ない。わかったつもりになってはいけないのだ。