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Neutral football

Footballと社会をつなぐ。Footballを語りたいなら、Footballだけでは語れない

すずさんを巡る旅

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12月16日(金)の夜から19日(月)まで、ふらりと広島に行ってきた。
映画『この世界の片隅に』の舞台となった、広島の江波や呉の街をどうしても巡ってみたくて。

 

江波にも呉にも、映画に出てくる建物や街並みがまだそのまま残されてるところがとても多い。でもそれも当然のこと。なぜならこの作品は、あの時代の風景、街並み、そして人々の暮らしを、片渕須直監督が徹底的に取材してリアリティーにこだわり抜いて創り上げたものだから。この片渕監督の数年越しの執念が、僕らに『すずさん』のリアルを想像させてくれるのだ。

 

確かにアニメーションだしフィクションだから、登場人物が実在したわけではないしそこにいたわけではないのだけれど、でもこの映画のすごいところは、本当にあの時代、この場所に主人公すずさんがいたんだろうなって本気で思わせるくらい、徹底してリアリティーの再現にこだわっているところ。再現というか、限りなく正確に近い描写、というか。

実際、本当に『すずさんみたいな人』がたくさんいたんだろうな、というのは想像に難しくないわけで。

 

だからどうしても「すずさんがいた場所」「すずさんも見ていた風景」に実際に行きたくなってしまって、夜行バスに乗って広島へと行ってきたのです。

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1日目、まずはすずさんの実家がある江波に。広島から路面電車「広電」に乗り、海の近くにある終点の町が江波。駅を降りるとすぐにカモメの鳴き声が聞こえて、潮の香りも漂ってくる。あまり人は歩いていないけど、いかにも漁業の町という佇まい。すずさんの家は海苔を造っていたけれど、今の江波は歩けば歩くほど、ずっと牡蠣の香りがしていた。

 

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トンネルを抜けて左方面にずっと歩くと、すずさんの実家があった辺りに着く。
映画冒頭のシーン、すずさんが海苔を背負わせられてる海沿いのあの道を見つけて、この旅まず最初の聖地へ到着。ふぅ…
すずさんやすみちゃんがいたあの情景が浮かんでくる。すでに少し、感慨に耽るわたし。

 

さらに
すずさんが船に乗せてもらった船着場と、毎日通った松下商店。

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この松下商店は本当にそのまま。子供の頃はこの前をすみちゃんと笑いながら走って学校に通い、大人になってからは、お兄ちゃんの骨を抱いて、家族で歩いた。

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そして水原哲との思い出の場所である、江波山も。江波山、グッと来たな…

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江波山頂上にある気象台は、映画にも映ってますね。すずさんがお母ちゃんに鉛筆代の二銭ねだるシーン。

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海苔を背負って砂利船に乗せてもらったすずさんが降りた原爆ドーム付近の雁木はそのまま残っていたし(ここ以外にも、雁木が至る所にあった。水上の交通が盛んだったことが伺えます)

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すずさんがしばし佇んでいた大正呉服店は、今は観光案内所を兼ねたレストハウスになっている。平和記念公園を訪れたことがある人ならば、この建物のことはきっと知っているでしょう。

 

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人さらいのオッさんに会った相生橋。周作との出会いの場、でもある。

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2日目は、すずさんが18歳で嫁いで行った呉へ。
東洋一の軍港と言われた呉港と、それを見下ろす灰ヶ峰が象徴的な町。広島から呉線に乗り、映画にも出てきたいくつもの駅を通り過ぎて、気づいたら海沿いに出ていた。お嫁に行く日にすずさんも電車の中から見ていたのと同じ、あの海の景色が見えてくる。

 

そして呉の駅を降りたら、真正面にそびえ立つのが灰ヶ峰

呉駅から蔵本通りを15分くらい歩き、もう一つの大通りである今西通りとぶつかる辺りから、途端に景色が変わる。すずさんが砂糖を買いに出かけた闇市があった辺りも。

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砂糖の価格があまりに高いことに驚いたすずさんが、買うか買わないか「かーきーのーたーね」と地面にしゃがみこんで迷うシーン、超〜大好き。

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そして大通りを渡り、すずさんが闇市の帰りに迷い込みリンさんと出会った朝日町遊郭の跡地。そこからもう少し登り歩けば、すずさんが買い物に出かける時に毎日通っていた「三ッ蔵」が、急に現れる。

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すずさんの毎日の象徴的な場所でもあるから、この三ッ蔵を見た時は結構感動したなぁ。

 

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すずさんが歩いた道。

 

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リンさんと出会った日、帰りを急ぎ走り出す道。

 

三ッ蔵を過ぎてさらに進むと、どんどん街並みが古くなっていく。まるで戦前にタイムスリップしたような古い民家の間をクネクネ続く細い坂道。
そこを延々と登り続け、呉の象徴である灰ヶ峰の途中にある北条家のところにようやく辿り着いた!
間違いなくこの家が北条家のモデルだろう。でもさすがに人様の家を載せるのはどうかと思うのでここでは写真は載せないけれど、ここですずさんが生活していた、と思うとそれだけで、もう万感の思い。

 

呉駅から歩いて1時間くらい。この道を登るのは相当に体力が要るわ…
お嫁入りする日、坂を登ってようやく北条家に着いた時にすずさんをはじめ家族の皆が「やっと着いたぁ」て感じでハァハァと息を切らしていたけれど、本当にそれ。冬なのに汗ダクダクになって、めっちゃ疲れたよ…

 

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すずさんの家から見える、呉の町と港。すずさんも毎日見ていたであろうこの景色は、映画で観た風景と全く同じもの。この場所で僕はしばしの間、感慨で胸がいっぱいになって動けなかった。いや、動きたくなかった。

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家の前や裏にある段々畑も、本当に残ってる。段々畑はこの映画を彩る大事なファクターだから、これまたしばしタイムスリップ。すずさんが憲兵に捕まった畑、周作さんが通っていたであろう、畑の下にある細い道。すずさんと周作さんがずっこけて落ちた道でもある。空襲に遭った時にお義父さんが助けてくれた場所でもあり、晴美さんと二人で海を眺めて船を探してたのも、この畑。

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すずさんが下手くそすぎる化粧で顔を真っ白にして周作に帳面を届けた海軍鎮守府(今は自衛隊集会所になってる)や、
晴美ちゃんと手を繋いで登った病院の階段にも行った。

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あらゆる『聖地』を巡った後、東京に帰る前に広島でもう一度映画を観た。
八丁堀にある、サロンシネマという映画館。ちょうどこのサロンシネマがある辺りの前で、すずさんは福屋や路面電車をスケッチしてる。

 

サロンシネマはお座敷席もあって、いかにも昔の「シネマ」といった風情。ラッキーなことにお座敷席に座れてのんびりと観れたけど、東京で観る以上に、周りは年配の方が多かった。そこでそんなに笑うんか!というところで、みんなゲラゲラ笑ってたりして、何だか幸せな心地だったな。
案の定、後半からは、笑い声がすすり泣きの音に変わったけれど…

エンドロールも全て終わった後、僕の隣で観ていたお爺さんが、とても満足そうな顔をされて、胸の前で小さく拍手をしていた。

 

広島の地で映画を観たら、広島に来る前とはまた違う感情が湧き上がってきた。

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当然、平和記念公園にも行った。資料館も入った。自身3回目の資料館だ。

この平和記念資料館には、ボランティアの人の話を真剣に聞く外国人旅行者がたくさんいた。

ここは平和の象徴の場所なんですよね。国籍問わず、広島は平和を願う人々が集う象徴の場所なんだろうと思った。

 

この世界の片隅に。まだ観ていない人は、絶対に観に行ったほうがいい。100年語り継がれるであろう、日本映画史上に残る名作。愛おしくてかわいいすずさんに、会いに行って下さい。