Neutral football

イメージした理想が現実を塗り替える。フットボールと社会をつなぐ

8人制なんかやめてしまえ ①

この記事をFootball EDGE に掲載したのは今年1月だけど、現状はあまり変わらず。むしろ、8人制を導入した本来の目的からさらにかけ離れた違う方向へと、全体が流れ

て行ってしまっているのではないか。そんな危機感を感じる毎週末です。

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ジュニア年代において今やすっかり当たり前となった「8人制」について。

まず始めにハッキリ言うと、自分は8人制が嫌い。嫌いという言い方に語弊があるのならば、わかりやすく言えば
「みんな8人制は素晴らしい!とか言うけどさ、本気で選手を育成しようとするならば、本気で子ども達に試合を楽しんでほしいと思うなら、本気でサッカーを知ってほしいと思うのなら、8人じゃない方がいいんじゃね?」

これが本心です。

そしてこれは自分が現場で感じる肌感覚だけど、日本サッカー協会というお殿様から与えられた、8人制という《禁断のおもちゃ》の使い方を明らかに履き違えてしまっている指導者が多い。

8人制はあくまでも子ども達が成長するためのツールであって、それをオーバーヒートさせず、目の前の子ども達にとってどういう使い方がベストかを考えないといけない。それは週末の試合に勝つためではなく、この子達が中学に行った時にスムーズに11人制に移行できるための前段階として捉えつつ、でもその中でサッカーの本質や原理原則を伝えていくこと。

本来はそれが大切なはずなのに、まず目先の試合に勝つことに夢中になり「8人制で勝つための練習をしなきゃ」とか平気で言っちゃう人の、なんと多いことか。その弊害はこの後たっぷり書くけれど、とにかく《使いやすいおもちゃ》を手に入れた大人がそれを悪用してるケースが多いのならば、もういっそのこと8人制なんてやめてしまえ!とも、僕は本気で思っている。

お前の肌感覚や好き嫌いで書くなと言われるかもしれないけれど、コラムとはそういう場なので、まぁ我慢して読んでください。

そして今回、このコラムを書くために各地域のたくさん指導者の方々にアンケートを実施しました。協力して頂いた皆さん、本当にありがとうございました。あ、これは決してエア・アンケートではございませぬ。

 

【 出場機会、確保できてますか? 】

プレーの話に行く前に、まず単純に11人制よりも出場人数が減るわけだから、それに応じて大会での「2チーム出し」もOKにするなどの措置がスムーズに出来ていれば理想だろう。人数を減らすならば、本来はそれがセットでなくてはいけない。しかしなかなか、現実はそうではない様子。
そのレギュレーションは各都道府県により違うし、また同一県内でも、地域によってそれぞれローカルルールがあり、様々な条件がつけられているようです。

《神奈川県 某市の例》
・市大会と区大会で2チーム出し可能。ただしグランド提供が必須。そして1チーム15人が全て同一学年であることが条件(2015年度、市大会で2チーム出せたのは1クラブだけ)
同市内でも、区大会は条件なく2チーム可能、という地域もある。
他の県や地域でも、グランドを提供するのが条件、また必ず同学年のみの構成であることが条件、というところが多い。

《埼玉県 某市の例》
・16人以上の6年生が登録されていて、A・Bチームにそれぞれ1人以上の6年生がいること。
これは少し条件が緩いですね。
・人数が少なくても対象学年が一人でもいればリーグ参加可能。さらに人数が揃わないチームは合同チームでの参加もOK、としている地域も。

 

また、帯同審判の問題も。
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《神奈川県 某市の例》
・審判員が1チームにつき最低2名は必要な条件なので、スタッフに余裕のあるチームしか対応出来ない。この市では2チーム出ししているチームはいない。1学年27名いるクラブチームでも、スタッフが対応出来ないので1チーム出し。

この市だけでなく、他の地域でもこの声は多く見られた。しかしこれ、主審のみの一審制にすればある程度解決できるものなのでは?8人制を導入する際、そのメリットの一つとして、主審一人だけで行えるという項目があったはず。それにより、審判へのリスペクトも促されていましたよね。
しかし現実は、常に副審もつけた3審制、あるいはそれに4審までつけている地域も多い。
「主審一人ではオフサイドがしっかり見れない」「勝敗がかかった試合でミスジャッジされたらたまらない」という声が大きく、こうなっているわけです。

それを大人があっさり言っちゃうのが、カッコ悪い。

いやいや、そこは大人が頑張ればいいところでしょと。大人のチカラ見せたれよって。
主審一人で、オフサイドも充分にジャッジできますよ。本気でやれば。本気で走れば。
「一審制ではジャッジし切れない」という前に、大人達がもっと頑張ってレベルアップすればいいだけ。やれない理由を言う前に、やれるようにまず頑張ろうよみんな。

もちろん、グランド不足や日程が組めない等の理由で2チーム出しへの条件を厳しくしてるのだろうことは、僕にも理解できます。ならばベンチに座っているメンバーの出場機会確保のために、これまた大人側が知恵を絞るべき。8人制を導入した一番の理由は何だったのかと。

「試合時間を長くして、ベンチメンバーも試合に出さざるをえない環境にしないと試合に出れない子供が増えるだけ。ベンチメンバーは必ず試合に出すなどのルールも必要」
横浜市の指導者・Sさんの意見)

「1人あたりのボールタッチを増やす意味での8人制は良いと思うが、その分、大会レギュレーションも整備しないと結局出場できない子が増え、本来の目的を失ってしまっている。そしてこの制度を取り入れるなら低学年は6人制でも良いと思う。ただし人数を減らす分、エントリーチーム数は増やす。そのために場所を確保する事に尽力する必要がある」
横浜市の指導者・Kさんの意見)

もちろん、トップダウンで制度改正されて無理やり動かされる前に、まずは指導者自らによる意識改善で、子ども達の出場機会を増やしてほしいところですよね。

 

【 サッカーの質はどうなった?結局ボールタッチ増えてる? 】

「8人制にすることで、選手一人一人のボールに触る機会、プレーに関わる機会を増やす」

Wao!いーねー。最高ぜよ。これは素晴らしい理念だし、当たり前の考え。しかし実際は、これと真逆になってるケースが多々、見られる。

8人制導入の初めの時期、僕が尊敬する神奈川の指導者Oさんが、こう予言していました。
「制度を変えたって、指導者が変わらないと意味がない。8人制を上手く使えない人や悪用する人が増えて、フィジカル勝負、単純な能力勝負になってしまう試合が多くなる。今よりも間違いなく、大差がつくゲームが多くなるよ」と。

僕が強く懸念していたのは
「一つのミスが即失点に繋がり、そして縦ポンひとつでゴールまで行ける。それにより、指導者によってはリスクのあるプレーを一切許さない人も増えてくる。無駄を極力省き、効率重視になる。ジュニア年代で、それが果たして子ども達のためになるのか。個性的な選手は明らかに減る」ということだった。

案外、その通りになってる。

もちろん、そうじゃないチームもたくさん知ってます。指導者の方がしっかりと8人制を使い、選手のプレーの幅を広げさせようとしているチーム。きっと卒業した後のことを見据えてやってるんだろうなというチーム。今この時期はこれが必要、という強い信念を持って、8人制の中でそれに取り組んでいるいくつもの好チーム、そして名指導者の方々を、僕は何人も知っている。

でも失礼な言い方だけど、そうじゃないチームの方が、圧倒的に多い。

チームや指導者の意図や拘りは当然チームによって様々でいいと思うし、それを何のためにやっているのか、選手の《いつ》を見据えているのか、それによる良い面と悪い面、両方を分かった上でやっているのかが大事だと思うんだけど、僕が見る限り現場の半数以上は、たぶんそこまで考えていない。

ノンリスクと速さと効率をまず要求して、プレー自体が実にせわしない。フィジカルを前面に押し出したサッカー、もしくはパターン化したやり方で選手を動かす、そんな効率重視のサッカーが増えている。
その場の状況を無視して、いつでもステレオタイプのようにひたすら「まずサイド!」「幅!」「大きく!」とかも…これ、低学年からやらせちゃってますからね。
そういう言葉の中にも、そこにその方の強い信念と意図を何とか見つけようと僕も必死に想像を働かせるんだけど、僕の頭と想像力ではどうしても…それが見つけられない。

その試合に勝つことだけに大人が必死になり一喜一憂して、8人制という使いやすいおもちゃを利用して、子どもの成長や上達は二の次三の次。勝つこと、勝とうとすることが成長に繋がる!という意見もあるだろうけれど、どう勝とうとするか、勝とうとして子ども達がどんな方法を選びどんなエラーが生まれたか、それをまたどう克服し越えていくかという、三歩進んで二歩下がるという大事なプロセスを無視し省略してる人が、圧倒的に多いような気がする。

こんなアンケート回答もありました。
「そもそも8人制の導入は選手がボールに沢山触れられるというのが一番強い理由だったはずなのに、現状では身体能力の高さをうまく指導者が利用してしまうケースが多く、このスタイルでの8人制では、大事なゴールデンエイジの時期を逆に無駄にしてしまっていると感じる」

全く同感です。
昨年秋、世田谷区の全日本少年サッカー大会・地区予選決勝を観に行った。横パスがほとんどない。リズムチェンジもない。行ったり来たりの応酬のみ。ボールを持って相手の前で止まれる、歩ける選手も皆無。やろうと思えばできると思うんだけど、やるとたぶん怒られるんだろうなぁ。双方のGK同士がパントキックでキャッチボールをしちゃってるシーンが何度も。おいおい。もう一度言うけど、おいおい。

結局何が言いたいかというと、前出の予言者Oさんの言うように、いくら協会のトップダウンで制度を変えたって、肝心の指導者がさらに変わらないと、そして勉強しないと意味がない。それ、実際にピッチ反映させてますか、子ども達に伝えてますかって話。

「11人制だとボールタッチの機会が少ない!だから8人制にしてボールタッチやプレーに関わる機会を増やそう!」と協会は言っていたけれど、いやいや、うちは11人制でもボールタッチ多いサッカーしてるし。8人制だろうが15人制だろうが20人制だろうが、そのスタンス変わらんし。

「スペースがあることにより、対人の駆け引きや攻守の明確に関わり方が明確になれる」
「GKのビルドアップや、CBの持ち上がりが出来る」
「オフザボールの動きを引き出しやすい」(アンケート結果より)

嫌われたくないので繰り返すけれど、このように明確に意図を持って取り組んでいるチームがたくさんあることも知ってます。

でも残念なことに、8人制になってそれをさらに省略しちゃってる人の方が多いんですよ。
あまり深く考えてないチームのほうが多いのは明らか。あくまでも僕の肌感覚ですけど、これは間違いない。

指導者次第で、おもちゃ(制度、レギュレーション)は有効なアイテムにもなれば、毒にも凶器にもなる。それとも麻薬かな。それを理解しないでただ目の前の結果を掴むために、子ども達に8人制の試合をする上での「効率」(これを都合よく《型》と言い換えている人も多い。意味全く違うけどな!)だけを求めているのであれば、、

被害を被るのは…今、あなたの目の前にいる子ども達だ。

そしてサッカー協会という名のお殿様。現場のこと、ご覧になってますか?

 

Part ② に続く。

 


(この記事は、筆者がコラムを連載している『Football EDGE』にて2016年1月に掲載した内容を再編集したものです)